松丸本舗主義(松岡正剛 著)
出版社:青幻舎
発売日:2012年10月5日
ISBN978-4-86152 362-5 C0095
| 最終更新日: 02/16/2016
出版社:青幻舎
発売日:2012年10月5日
ISBN978-4-86152 362-5 C0095
2012年9月30日(日曜)午後9時、松丸本舗がクローズした。
東京丸の内 丸善本店の4階に圧倒的な存在感とともに松丸本舗は在った。2009年10月23日(金)~2012年9月30日(日)まで1074日間の営業。足を運ぶたびに驚きがあり、必ず3冊以上は買いたくなる不思議な本屋さんだった。
『松丸本舗主義』は、松丸本舗がどのような経緯で誕生し、どのような事情によって閉店に至ってしまったのか全容を書き記した書籍である。全518ページ、四六版188×130mm、厚みは46mmで、松丸書棚とほぼ同じ厚みになるよう仕上げられている。
第 I 章 松丸本舗の旋法
―われわれは何に挑戦したのか
(松岡正剛氏書き下ろし200ページ)
第II章 松丸本舗・全仕事
―1074日・700棚・5万冊・65坪
[1]本屋のブランドをつくる
[2]本棚を編集工学する
[3]本と人をつなぐ
[4]目利きに学ぶ
[5]「ものがたり」を贈る
[6]共読の扉をひらく
第III章 気分は松丸本舗
―各界から寄せられたメッセージ(総勢43名)
第IV章 松丸本舗クロニクル
―本だらけ、本仕込み、そして松「○」本舗
松丸本舗の1074日
松丸本舗から、松「○」本舗へ
9月29日に先行発売された限定300冊の1冊を入手し、一気に読んだ。
「図書街」の体系図やシンセティックコンセプトの関係図、松丸本舗の思い出の写真も多数掲載され、読みごたえがある。
特に第 I 章、セイゴオさんご自身によって書き下ろされた200ページには、松丸本舗の挑戦の記録が凝縮されている。ご自身の仕事術をこんなにさらけ出してしまって大丈夫なんだろうかと心配になるほどだ。
それだけにとどまらない。本棚の設計、本や読書のかかえる問題点、書店のかかえる問題点についてもセイゴオさんの鋭いメスが入る。松岡正剛流哲学がつまびらかにされている。
セイゴオさんの講演会やイベントは、嵐になることが多い。それも、メガトン級のとてつもない嵐なのだ。げんに最終日2012年9月30日も、台風17号が愛知県東部に上陸、そのまま関東地方上空を通過し、午後8時過ぎには首都圏の電車はあちこちで運転休止の事態に見舞われた。2011年9月21日に新宿 紀伊国屋で行われた『松岡正剛 リスクな言葉・アートな言葉』講演会でも、昼過ぎに台風15号が浜松市付近に上陸して首都圏の電車は全面休止、会場に駆け付ける手段が失われてしまった。
普通の講演者ならば「延期」を決断するような嵐であっても、セイゴオさんは歩みを止めない。必ず遂行なさる。
"嵐を呼ぶ男"は、松丸運営の背景でもつねに嵐と戦っていらしたようだ。信頼する同志の退社、管轄の変更、人事の崩壊、何故こんな最悪のタイミングでめまぐるしく変転がおこるのか。
≪その後の話題も賑やかではあったのだが、われわれはこうした捩れをずっと背負っていたのである。≫
ため息が出た。改めて腑に落ちることもあった。なんとなくしっくりしないと感じていたことは、捩れを隠しきれずにむき出しになった割れ目だったのだ。
背後ではひしゃげている部分があったとしても、客側から見る松丸本舗はいつも活気があって楽しかった。師走の「本のクリスマス」、正月の「本の福袋」、ひなまつりの「松丸ひな祭り」はじめ、いつも季節感があふれていた。
杉本博司さんや鴻巣友季子さんらによるブックイベント「本屋本談」、BSE(ブックショップエディター)によるワークショップ、愛書家の自宅蔵書を再現した「本家」、いつ足を運んでも興味津々でワクワクしっぱなしだった。
第II章では、松丸本舗のさまざまな仕組みが解き明かされている。
この章は願わくば、松丸本舗があるうちに読みたかった。こういう意図で作られていたのかと初めて気づいた部分も多く、本を読みながら実物を眺めたらますます共感できたのに、残念でたまらない。「三間連結」「一種合成」「二点分岐」を意識して書棚を眺めてみたら、新たな気づきと共読が生まれていたと思うのに。
松丸本舗の閉店を残念に思っている人はじつに多い。第III章は、そんな皆さんの声を収めた惜別の章だ。総勢43名、いずれも松丸本舗と深く関わりのあった方々である。著者名に添えられた「α」のデザインは、「寄稿してくれたみんなとの合作」の想いであるとセイゴオさんは仰っていらした。
どの方々も、松丸本舗の閉店を残念に思う一方で、未来へ託された次の種の開花を心待ちにしていることが感じ取れる。確かに。蒔かれた種はあちこちで芽吹いて育っていく。それに、"あの"セイゴオさんがこのままで終わらせるとは到底思えない。次はどんな手で挑んでくださるのか、どんな手法で嵐を起こしてくださるのか、その一手を楽しみに待つことにいたしましょう。
第IV章は「松丸本舗クロニクル」、1074日間にあった出来事を記録した章だ。
こうやって時系列で追っていくと、松丸本舗の深化がよくわかる。お客さんの様子をきちんと観察し、迷いながらも真剣に手作り感覚で創りあげた空間であることが伝わってくる。「そうそう、このイベント、行った行った。楽しかったな」「これ、見逃したんだよっ!」、松丸本舗で過ごした日々のことをリアルに思い出す。
2009年2月20日(121日目)、2012年4月3日(894日目)、2012年5月4日(925日目)の記録には、ちょっと笑った。おうおう、冴えているね。こういう記録も松丸本舗らしさを感じる。
2012年8月12日(1025日目)の記録は、まったくもって同感なのだ。本棚からのコミュニケーションはもちろんだったけれど、スタッフの皆さんとのコミュニケーションも楽しくてたまらない松丸本舗だった。
『松丸本舗から、松「○」本舗へ』、和泉佳奈子さんからのメッセージは深く考えさせられた。
カナコさんとは、松丸本舗にて何度もお目にかかった。ひな祭りのときは席がなくなって途方に暮れていたところをコッソリ助けてくださったり、いつお目にかかっても気配りがイキでステキだった。講演中、「和泉君、これはどうだっけ?」とセイゴオさんが問うと、小柄な彼女の姿は見えないけれど、大勢のお客さんの背後から元気な声が響いてきた。
≪閉店によって本棚は解体され、倉庫に預けられるという。それでも無くならないものがある。それは記憶の中の松丸本舗であり、"クリエイティブの本来"や"方法の塊"をひっくるめた「松丸本舗主義」である。私のなかで、松丸本舗はすでに松「○」本舗である。≫
確かに、すでに"松「○」本舗"だね、カナコさん。この「○」は合格の「○」でもあり、満月の「○」でもあり、スタートを意味する「0」にもなり、他の文字を入れるスペースにもなるわけで。
松丸本舗で手に入れた貴重な本とともに「○」を探す旅に出ることにします。たぶんきっとユニークでキラキラした「○」探しになるのでしょう。
セイゴオさん、カナコさん、松丸本舗関係者の皆さま
貴重なスペースを創ってくださって、ありがとうございました。
そして、
貴重な書籍を出版くださって、ありがとうございました。
(2012/10/05)